円谷英二特技監督は、20世紀の終わりに近づく未来に、自分たちが作った映画が、ビデオやDVDで大量に販売され、同じシーンを何度も繰り返して、見られたりするという事態は想像していなかったのかもしれません。
円谷英二特技監督時代のゴジラ映画に登場する、いわゆる「ギニョール」や遠景用の「人形ゴジラ」のシーンを見た時に、
「一瞬のシーンだから、これでもいいだろ」
的なものを感じてしまうのです。
ギニョールのシーンも、遠景用人形のシーンも、カット割りとして、絶対に挟まなければいけないシーンなのだが、そのワンカットのためだけに、巨大なセットを作るわけにもいかない。
という状況であったのは想像できます。
しかし、円谷英二特技監督が、今現在のような状況、特撮シーンを何度も繰り返し見られる、(人によってはスローにしたり、ストップモーションにしたり)のが分かっていたら、もっとしっかりしたものを作っていただろうと、私は思うのです。
ギニョールはギニョールだ!マペットじゃない!はずだ
腕と手を中に入れて、口の部分をパクパクさせることができるタイプの怪獣を、東宝特撮用語では「ギニョール」と呼びます。
本来、ギニョールとは「指人形」のことで、指にはめる小さい人形のはずなのですが、東宝特撮であのデカイ、パクパク人形が「ギニョール」なのです。
私は「東宝特撮映画全史」で、特撮脳を育てたました。
従って、あの手の人形は「ギニョール」として頭にインプットされていました。
「東宝特撮映画全史」が発売されていた同じ頃、巷ではハリウッドを中心とした「SFXムービー」が幅を利かせていました。
特撮とは呼ばず、「SFX」です。
私が、洋画好きの友人に貸してもらったSFXの研究本にも、手を入れて、口を開閉させる人形が載っていました。
しかし、その人形は「マペット」と呼ばれて(書かれて)いました。
それを見て私は、
「違う!これはギニョールだろ!」
ゴジラ好き、東宝特撮好きは、そう叫びたくなるのでした。
しかし、「セサミストリート」や「マペットショー」、お笑い芸人の「パペットマペット」などなど、
あの口パク人形は「マペット」という呼称が正しいようですね。
でも、いいんです。ゴジラファンは、これからも、「ギニョール」と呼んでいきましょう!
ちなみに、怪獣大戦争ゴジラの顔は、セサミストリートのマペットキャラクターの「クッキーモンスター」に似ていると、YouTube動画のコメント欄に英語コメントで書き込まれることがあります。
「ゴジラ・トーン」というゴジラ映画を紹介する動画でも、ネタにしていました。
ギニョールなしでは生まれなかった名シーン
第1作目の「ゴジラ」では、大事なシーンでは、必ずギニョールゴジラが登場します。
名シーンもあれば、「これはちょっと…」というシーンもあります。
名シーンをあげていきましょう。
第一に、ゴジラの初登場シーン!
大戸島の山の向こう側で咆吼するシーンは秀逸です。
しかし、次のシーンでこちらを向いたカットは、いかにもギニョール!遠近感がおかしい。まあ、しょうがない。
第2の名シーンは、鳥かご越しに見えるゴジラの咆哮!
こういうの大好きです。
絵コンテの段階で、狙っている感アリアリですが、その押し迫る臨場感!
小動物と巨大生物の対比!
テレビ塔&銀座和光ビル時計塔のシーン
名シーンかどうか、意見の分かれるところですが、テレビ塔にかぶりつくシーン。
そして、銀座和光ビルのチャイムに怒りを向ける、腕の短いギニョールゴジラ!
どれも、やはり必要不可欠なカットです。
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当時の観客はどう感じたのか?
当時、初めてこの映画を見た人の中には、着ぐるみシーンからギニョールにカットが変わる時、どう感じたのでしょう?
おそらく、そんな違和感なく「おおおっ」て感じで惹き込まれていたのだと思います。
登場、何度も繰り返し同じシーンを見ることはできなかったのですから。
現実に、「ゴジラ」は長い間リバイバル上映もなく、テレビ放送もありませんでした。
自分もゴジラのギニョールシーンがちょっと変かなと思い始めたのは、ビデオレンタルというものがあったからなわけです。
おいおい、口から吐いた放射能火炎が、ゴジラの自分の手に掛かってるぞ!おいおい!とか!
故に最初に言いましたように、円谷英二特技監督は、何度も見られることを前提にしていなかったのではないかと、私は感じたわけです。
その後のゴジラ映画でも、他のスタッフが「顔が違うけどいいんですか?」と尋ねても、
「必要なカットだからいいんだよ」と、円谷英二特技監督は言っていたということです。(東宝特撮映画全史より)
ゴジラの逆襲のギニョール
ゴジラの逆襲も、ギニョールは大活躍しています。
この作品でも顔が違う(歯が外に出ている!)
ゴジラとアンギラスのギニョールはお互いに咆哮し合います。
ゴジラはガバッと口を開いて、アンギラスは頭を震わせながら!
そしてアンギラスの首に噛みつくゴジラ!
このシーンも、当時の着ぐるみでは表現できなかったシーンでしょう。
ゴジラの逆襲は画面全体が暗くてよく見えない?ので、ギニョールシーンに違和感をそれほど感じません。
ギニョールのシーンは首から上だけなので、違和感がないのでしょう。
キングコング対ゴジラでのギニョールは?
ゴジラのギニョールシーンは、私の記憶では1カットだけ。
放射能を吐くシーンを横顔で写したカットしか思い出せません。
それに比べて、キングコングは類人猿なので、表情を表現するためだと思われますが、頻繁にギニョールを使用しています。
コングが登場して直ぐの、「赤い汁」を飲むシーン。
まるで酒好きのオッサンが、コップに口を寄せてしまうような、コングの表情!
そして、明け方に気球で富士山へ運ばれ、気球から切り離される前の、
「オレは何者やねん?」て感じの表情。
ギニョールではあそこまでが限界だったでしょう。
モスラ対ゴジラでは?
モスラ対ゴジラに登場するゴジラのギニョールは、比較的モスゴジに近い造形です。
モスゴジの着ぐるみが比較的、「演技」が出来る着ぐるみなので、ギニョールの出番は少ないです。
しかし、印象深いところで登場します。
名古屋タワーが倒れて、ゴジラの背中にぶつかる時、ギニョールゴジラがブワッと振り向く!
ゴジラが振り向く時に首の部分が捻れて、細くなってしまう!
これも仕方がないか。
クライマックスのモスラの幼虫もギニョール!
モスラの幼虫は、電動で動くタイプと、それとは別にギニョールがありますよね。
卵から生まれるシーンはギニョールです。
クライマックスで、岩に隠れながらゴジラに向かって糸を履いている幼虫も、人が腕を入れて操作しています。
しかしまてよ?
ゴジラの尻尾に食らいついて、自分の体が千切れかかりながら、振り回されていたあのモスラはなんだ?
別のタイプもあったのでしょうか?そてともギニョール兼用のモスラ幼虫だったのでしょうか?
あなたも、映像で確認して見てください。
「三大怪獣地球最大の決戦」では、ラドンのギニョールが大活躍!
モスラに糸をかけられて???
「なんでやねん?」と首を捻っているラドンは、いかにも人が腕を入れて操作しています!って感じの動き!
ゴジラのギニョールも新調したようで、眼球が左右に動きます。しかし妙に顔が平べったい。
このゴジラとラドンのギニョール対決がコミカルです。
岩石の打ち合いシーンは、ゴジラが着ぐるみ、ラドンのヘッディングはギニョール。
ギニョールが活躍するゴジラ映画はここまで。
次の映画「怪獣大戦争」では、遠景用人形は使っていますが、ギニョールは出てきません。
その代わり、過去の映画のフィルムの使い回しが増え始めました。
この辺りあたりから、ゴジラ映画の作りが大雑把になり始めます。
面倒な噛みつきシーンやアップで表情を感じさせるカットはやらなくなりました。
あなたも、もう一度、ギニョールを使ったシーンを今一度注目してみてみてください。
思わぬ発見があって、別の視点からゴジラ映画を楽しめるかもしれましれませんよ。
長くなってしまったので、遠景用人形については、別の記事で書きたいと思います。